私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
『私……一護くんが好きかも…』
ードクンッ
胸が、嫌な音を立てて痛んだ。
『すごく、ドキドキするっ……』
胸を押さえて、また一護へ視線を向ける紗枝に、私は何も言えず、動けずに放心する。
どうしよう、どうしようっ。
紗枝と、同じ人を好きになってしまった。
『私決めた!』
『え………?』
何も考えられずにいると、紗枝はどんどん話を進めていってしまう。
『一護くんと、恋をする!!彼氏も夢じゃないかもっ』
嬉しそうに、舞い上がっている紗枝に、私は何も言えなかった。
『椿、応援してくれるよね!』
『あっ………』
私も、一護が好き。
そう言ってしまおうか、そう思って口を開いて、すぐに閉じる。
……私がそれを紗枝に言ってしまったら、この関係が壊れてしまう気がした。
ーー大好きな、大切な親友。
ーー私の為に、勇気を出してくれた人。
ーー私が、絶対に守らなきゃいけない人。
私が、紗枝を傷つけることなんて、絶対に…いけない。
だから……。
『…………応援するよ、紗枝』
そう、この日私は、一護への想いに蓋をした。
『ありがとうぅっ!』
そう言って抱きつく紗枝に、私は心で泣きながら、笑う。
辛いのに笑う事が、こんなに苦しいんだって、初めて知った日だった。