私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
「オイ、紗枝は?」
「知らないよ、朝練じゃない?」
同じクラスだから、自然と一護が同じ方向へ歩いてくる。私とは人1人分空けた距離で隣を歩いていた。
物理的な距離は人一人分。
心の距離は、地球の裏側以上の遠さがある。
「雨でも朝練か、お前と違って紗枝は努力家だよな」
「はぁ?一護だって帰宅部でしょーが」
そう、親友の南 紗枝(みなみ さえ)は吹奏楽部で、朝はほとんど毎日朝練をしている。
私と一護といえば……帰宅部で、同じカフェでバイトをしていた。
高校1年生の時は一護と仲が良かったから、同じバイト先にしたんだけど……。
今じゃただ苦痛でしかない。