恋のクスリ。
ガチャンっとドアが閉まる音がすると
笑顔で玄関へと急ぐ母。
おかえりと声をかけたと思えば、すぐさま笑い声が聞こえ出した。
スリッパの近づく音。
「おかえり、父さん」
「おう、蓮。おめでとう金賞」
祝福する気もない声で俺に声をかける。
「ああ、そういえばな今度うちの大学でドラッグについての講演会があるそうなんだが、お前高校生の代表として出席してみないか?
まだお前、そういう類の勉強したことないだろう。」
カバンから講演会の資料と思われるものを俺に渡してきた。
「いいんじゃない?最近多いものね、ドラッグ?ていうのかしら。若い子たちがよく手を出してるやつ」
「まあ、いい機会だろ。でもただ出席するだけじゃ何の意味もないぞ。それなりに自分でも勉強しておくように」
俺の意見を挟む余地なく
講演会への出席が決まる。
これがいつものこと。
「わかった」
そう返事をして、自分の部屋へ行く。
少しでも早くあの場所から逃げたくて
息ができなくなる前に———。
気づけば、自分の部屋に着くまでに
手に握られていた講演会の資料は、
俺の拳の中で、グチャグチャになっていた。