ただ、思いつきのままに。(超不定期更新)





包丁を取り出した。




僕は殺されるのか?と思った。




とんだ勘違いだった。




それを彼女は、自分に当てたのだ。





慌てて僕が止めると、彼女はまた泣き出した。






「もう、酷いよ、なんなのこれ……」




悲痛な声色で彼女は僕を見る。





「それは、その……」



うまく答えられず、言葉に詰まっていると。



「自分が嫌いなの……ううん、嫌いだったの。



自分の体も汚いと思ってたんだよ、私は。


それでも、君が好きだって言ってくれたから。



だから、こんな醜い身体ですら、ようやく愛しく思えたのに。




こんな、知らない男に汚されて、なんだか、さらに汚くなっちゃった。



……ねぇ、私に死んでもらいたかったの?



だからこんなことしたの?



絶対に許せない。君だけは。




ここで死なれたら困る?迷惑?


ざまあみろ。私はここで死んであげるから。



ここに来る度、君は、ほかの男に犯されて醜くなった私を思い出して。」





狂気とも呼べる彼女の考えに、背中をゾクゾクとしたものが駆け巡った。



それは、決して不快なものではなかった。



だが、それと同時に悲しみと愛情が生まれる。




今まで僕に迷惑などかけないようにと、気遣って気遣って、僕の顔色ばかり伺っていた優しい彼女が、僕に初めて迷惑をかけようとしている。



死を伴って。


それは、こんなに嬉しく、切ない。






「あ、警察が来ても平気だよ。



自殺したんだもん、私は。」




最後の最後で爪が甘い。



それじゃあ迷惑になっていない。




震えている彼女の体を抱きしめた。




嫌だ、汚い、そんなことを言いながら、抵抗する。


< 10 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop