ただ、思いつきのままに。(超不定期更新)
包丁を取り出した。
僕は殺されるのか?と思った。
とんだ勘違いだった。
それを彼女は、自分に当てたのだ。
慌てて僕が止めると、彼女はまた泣き出した。
「もう、酷いよ、なんなのこれ……」
悲痛な声色で彼女は僕を見る。
「それは、その……」
うまく答えられず、言葉に詰まっていると。
「自分が嫌いなの……ううん、嫌いだったの。
自分の体も汚いと思ってたんだよ、私は。
それでも、君が好きだって言ってくれたから。
だから、こんな醜い身体ですら、ようやく愛しく思えたのに。
こんな、知らない男に汚されて、なんだか、さらに汚くなっちゃった。
……ねぇ、私に死んでもらいたかったの?
だからこんなことしたの?
絶対に許せない。君だけは。
ここで死なれたら困る?迷惑?
ざまあみろ。私はここで死んであげるから。
ここに来る度、君は、ほかの男に犯されて醜くなった私を思い出して。」
狂気とも呼べる彼女の考えに、背中をゾクゾクとしたものが駆け巡った。
それは、決して不快なものではなかった。
だが、それと同時に悲しみと愛情が生まれる。
今まで僕に迷惑などかけないようにと、気遣って気遣って、僕の顔色ばかり伺っていた優しい彼女が、僕に初めて迷惑をかけようとしている。
死を伴って。
それは、こんなに嬉しく、切ない。
「あ、警察が来ても平気だよ。
自殺したんだもん、私は。」
最後の最後で爪が甘い。
それじゃあ迷惑になっていない。
震えている彼女の体を抱きしめた。
嫌だ、汚い、そんなことを言いながら、抵抗する。