鬼と仮面
プロローグ


むかし、学生のとき、中学生のとき。
罰ゲームで、誰でも良いから告白するっていうのが流行った。

受付の女子を前にしてなんとなく矢敷絢人は思い出していた。

『私は一人でも大丈夫なので』

その言葉がずっと頭の奥に残っている。

「あの、返事は今じゃなくて良いので……」

俯き加減に一生懸命言葉を紡ぐ目の前の女性。同僚ならこれを可愛いと思って、この場で了解をして付き合うのだろう、と他人事のように考えた。

矢敷にとっては他人事だったからだ。

「いえ、今で大丈夫です」

あと十分で昼休憩が終わろうとしていた。


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