鬼と仮面
順番が違うな。
私も矢敷さんが好きな時がちょっとだけあった。
告白するとか付き合うとかそういうのは考えなかった。
怖かったから考えないようにした。
同期入社で仕事ができると目立っていたひと。
変に関わったら、自分の期待が膨らむことが分かっていた。そんな自分が嫌いだから、絶対にミスはしないと決めた。
姿を見るだけで嬉しくなる距離が良いと思った。
「お待たせしました」
矢敷さんが帰ってきて、私が持っていたメニューを覗く。
「灰澤さん、肉食べるつもりですか。胃腸が丈夫なんですね」
「食べたいなって見てただけですよ、食べませんよ」