鬼と仮面
だから一年のときのクラスメートの顔を誰一人として思い出せない。
先生の顔も、教室がどうだったかも。
「すみません、全然わからなくて」
すみません、ともう一度謝った。
「そんな謝らなくても」
「私二年の頭に引っ越しちゃって、一年のときのこと殆ど忘れちゃって。覚えてたら懐かしい話もできましたよね、本当すみません」
「灰澤さん」
キーウィを掴んでいる右手に触れられた。
下心がなかったか、と言えば嘘になる。
矢敷さんを無理やり起こして終電に間に合うように起こして帰ることだって本当は出来た。
しなかったのは下心だ、と思う。