鬼と仮面

教室の誰も灰澤さんの話をすることはなかった。

ちょうど俺が遅刻して下駄箱に入ったとき、灰澤さんが靴に履き替えていた。

二時間目の途中の時間だった。

首にマフラーを巻いて運動靴を履いている。俺は自分の靴箱を開けながらその様子をみていた。
きっとそれにも気付いていない。

灰澤さんの目には誰にも映っていない。

「今から帰んの?」

声をかけると驚いたようにこちらを見た。

俺にはその表情が笑顔を殺した仮面にしか見えなかった。

「うん」

「俺自転車で来たから、送っていこうか?」


< 33 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop