鬼と仮面
その言葉に心が震える。
「そしたら私、次は笑って許せます。傷ついた顔なんてしないし、誰かに言いふらしたりなんかもしない」
鞄を握らない左手の甲が俯く灰澤さんの顔にあてられる。
数センチ離れたところで、好きな人が泣いている。
「でも、反対に嬉しがってる自分もいるんです。矢敷さんに貰ったキーウィ可愛いって、毎日貰ったときのこと思い出して、私も好きですって返したいって思う自分もいるんです」
俺は謝れない。
灰澤さんを好きなのは本当だし、笑っているのも事実だからだ。
そして、俺が覚えていることを灰澤さんが覚えていないのも。
「じゃあ、俺が好きってところだけ大切に持っといてよ」