鬼と仮面

背もたれに背中をつけて、矢敷さんはテレビの光を眩しそうに見ている。

「灰澤さんは俺のお守りで置いていかれたわけですか」

「そういうことになりますね」

よく名前知っていたな、と思う。自己紹介のときに覚えたのかな。

私は資材部にいるけれど矢敷さんと関わったことがない。
というか、関わるのが怖かったので絶対ミスをしないと決めていた。

「申し訳ないです」

少しも心のこもっていない言葉に苦笑いしかできない。

私だって好きで残ったんじゃない。こんなことなら一番最初に抜けて知らない顔をして帰りたかった。


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