鬼と仮面
矢敷さんがここに座るまでは皆不思議そうな顔をしていたけれど、鹿沼くんが声をかけたことによって、また雑談が始まる。
「生ひとつ」
「りょーかい」
古倉さんは矢敷さんに阻まれた私に興味はなくなったらしく、違う女性と話し始めた。
……あれ、私何しにここに来たんだっけ。
「大丈夫?」
矢敷さんの声だけがクリアに聞こえる。
「大丈夫です」
テーブルに頬杖をついてこちらを見ている矢敷さんに笑ってみせる。
「矢敷さんこそ、仕事……」
するりと合わさるように、右手が繋がれた。指が絡められて、なんだか泣きそうになった。