セロリとアライグマ
「一週間、自分の部屋にこもった。誰かと話せば怖くなって手を洗ってしまうから。誰とも会わなければ手を洗わなくて済むと思ったんだけど…でもそんなのもおかしいよね。そんなこと思う方が変だよね」

「…クラスの奴の方がおかしいんじゃないの?精神科に行っただけでなにが『精神異常』だよ。あんな頭悪い奴らの事なんて気にすんな。ただお前がバカな言動に過剰に反応しちゃっただけじゃん」

新伊はにこっと笑った。

さびしげな笑顔だった。


「ありがと、山崎くん。でも、もういいんだ。心配してたお母さんとも相談した事だし。田崎先生からも電話があって、『転校考えた方がいいんじゃないか』って言われちゃったしね」

田崎、余計な事ばっかいいやがってマジむかつく。

何が転校考えろだよ。お前が何にもしないからクラスの奴らが増長したんじゃねーか。


「その後色々考えて、普通学科の高校に通う事に決めたの」

「え?商業じゃないワケ?」

「うん。商業高校に来たのは高校卒業して就職するためだったから。でも、今は大学進学したいと思ってる。お母さんにも『自分の将来なんだから自分で決めなさい』って言われたんだ。やっと決心できた」

商業高校に通って普通学科に編入するのは難しいと思う。
何しろ勉強している科目が全然違う。

普通学科では簿記や商法はやっていない。
その代わり数学や英語は全然違う勉強をしている。

それでもなぜ普通学科の高校に編入しようと思うんだろう。なぜ今更大学に進学希望?


「大学行って…何すんの?」

「将来なりたいもの、やっと見つけられたの。今まで漠然と就職する事だけ考えていたんだけど、就きたい職業がこの2週間で確かになった。その職業に就くためには大学通わないとダメなんだ」


ある意味、うらやましかった。

オレは大学進学希望しているが、別になりたい職業があるわけでもない。

ただみんなが大学へいくから同じようになろうとしているだけ。



新伊は違う。

自分の就きたい職をもう明確にしている。



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