セロリとアライグマ
「何になりたいわけ?」

「えへへ…秘密。もしなれなかったらなんか恥ずかしいし」

新伊は歯を見せて笑った。

「あのクラスじゃなければ手を洗わないなんて保証はないけど…今度こそがんばるキッカケにしたくて。このこと、恥ずかしいからクラスの人には言わないでね。学校に来る勇気無くて結局みんながいない今日にしたから」

「クラスに挨拶とかしないの?」

「うん。さっき田崎先生に挨拶してきたから今日で終わり。だから一回も入った事無い図書室に入ってみたかったの。無理言ってホントごめんね。ゼミとか行く予定だったかな?」

「いや…別にいいけど…」


ホントはもうゼミの時間だった。

だが今ゼミに行くわけにいかない。行ったら絶対後から後悔する。


新伊と話せるのはもうこれで最後だ。

オレは新伊の彼氏でも友達でもなんでもない。ただのクラスメイトだから、この学校という場から離れればなんの関わりも無くなる。



厄介な事には首を突っ込みたくなかったオレ。

新伊の事だって最初は冷めた目で見ていた。




こんなにがんばってきた新伊をこの高校に引き止める理由なんて、オレには見つからない。



オレ、新伊に今、何を言えばいいんだろう。



『助けられなくてゴメン』?

『次の高校へ行ってもがんばれよ』?




そうじゃなくて、そうじゃなくて!!



「あ、もうこんな時間になっちゃったね!山崎くん、どうもありがと!!そろそろでよっか―」

「――新伊」

「え?」

 

ゴクンとオレは息を呑んだ。


「お前は全然汚れてない。オレみたいに流されていない、クラスの奴と同じじゃない。これ以上がんばれない事が情けない事じゃないし、ダメなことでもない。だから気にすんなよ」


「―――」

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