セロリとアライグマ
「――山崎くん」

「え?」

新伊は顔を上げた。涙でぐちゃぐちゃになった顔でにこっと笑った。


「あのね、今まで山崎くんだけがクラスの中でアライグマって呼ばなかったの。ありがとね」

「…礼言う程の事でもないじゃん」

「そんなことないよ。うれしかったから」

新伊は何でもお礼をいう。

言われて悪い気はしないけど。




「じゃ、ゼミ、がんばってね!」

新伊は図書室の扉を開け、オレに手を振った。

「お前もがんばれよ。あんま手、洗うなよ」

オレも小さく手を振る。

「うん、がんばるね!山崎くん、ホントありがと!!」



最後は笑って走っていってしまった。

もう二度と見ることのできない新伊の後姿をオレはしばらくじっと見ていた。




お前だってオレの事、一度も『セロリ』って呼ばなかったな、そういえば。

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