セロリとアライグマ
「で、それから教室を出て行く回数が増えたから、高西さんが新伊さんの後をつけたんだって。そしたら体育館の廊下のトイレでずっと手を洗っているのをみて『気持ち悪い』ってシカト始めたらしいよ」


女子の間ではよくあることだ。

一人が悪口を言えば皆賛同し、そうして結束力を強める。



新伊はきっと敏感だったんだな、そういう人間の汚い部分に。

敏感だったから、手を洗ってしまった。

シカトされた。

嫌がらせをうけた。



オレは、女子のグループに全然関心がなかったからそんなこと知らなかった。

ただ、新伊が手を洗っているのをみて「変な奴」ぐらいに思っていた。



憤りの無い悔しさがこみ上げた。

それは、クラスに対してでもあり、自分に対してでもあった。



「新伊さん、別に悪いことしたわけじゃなかったのに。なんかかわいそう」


潮田は笑いながら新伊の事をしゃべっている5人を横目で見ながらため息をついた。



遅いよ。遅いんだよ!


どうして新伊がいるときにその言葉を言ってやらなかったんだよ。


そうすれば、新伊はもう少し『がんばる』ことが出来たかもしれない。

新伊が自分を『諦める』事もなかったのかもしれない。



そして、どうしてオレも、人に流されるばっかりで、新伊を助ける事が出来なかったんだろう。



面倒なことに関わりたくなかったから?

嫌われたくなかったから?

流されていた方がラクだったから?



どれも当てはまる。


彼氏でも友達でも無くても、どうしてみんなの前で助けてやれなかったんだろう。




オレはその日日直。放課後日誌に今日の出来事を書いて担任に提出しなければならなかった。

日誌の『今日の出来事』のところには、最初『特に無し』といつも書いている言葉を書いた。

だが、後から消しゴムを消し、『新伊が転校を選んだ』と書いた。

そうでもしないと、うちのクラスの人間は新伊がクラスにいたことすらそのうち忘れてしまいそうな気がする。


書いておけば、日誌の中には一応新伊の存在が残るかなと思った。

< 111 / 123 >

この作品をシェア

pagetop