セロリとアライグマ
「え?あ、なんでしょうか…」

「山崎さん、さっき事務局来た時ボールペン落としていったのよ。ほら」

そういって差し出したボールペンは確かにオレのもの。
社名がはいったボールペンだ。

っていうか今はそれどころじゃない。



「あ、あの、この『カウンセラー室』って…」

「ああ、ここ?ここ、うちの中学のスクールカウンセラーの部屋なんですよ」

「スクール…カウンセラー…?」

聞きなれない言葉だ。

なんだ、それ?


「今、学校っていじめとか不登校が多いでしょ?それで配置されることが今年の4月に決まったんですよ。生徒の悩み相談室みたいなところでね。スクールカウンセラーが生徒に助言したり話を聞いてあげたりするんですって」

「へぇ…」

「親とか教師だけじゃ受け止めることのできない領域を、第三者となるスクールカウンセラーで補わせることが目的って彼女は言ってたけど」

事務主任はそういって扉の向こうの新伊を見た。

「まぁ、生徒にとっては『居心地のいい休憩所』みたいになっているけどね。それでも、その中で悩みを打ち明けられたりする事もあるみたい。新伊さん、若いけどすごくいい子なのよ。一人一人の話をちゃんと目を見て聞いてあげて、ちゃんと受け答えして、分からないことがあれば一緒に調べてあげたり。私、結構新伊さんと話するんだけど、すごく明るい子でこっちまで元気が出てくるのよ」


オレはフッと笑った。

なるほどな、そう思った。


11年前、新伊がなりたかった職業がいまやっと分かったのだ。


照れくさそうにオレに『秘密』と言った職業、それが『スクールカウンセラー』だったなんて思いもしなかった。


でも、ある意味新伊らしい選択だ。

< 119 / 123 >

この作品をシェア

pagetop