セロリとアライグマ
そのとき、部屋の中の女子がじっと新伊の机の上を見ていた。


「ねぇ、新伊センセ、先生ってアライグマ好きなの?同じ『アライ=新伊』だから?」

オレは目を細めて新伊の机の上のオレンジ色の物体を見た。

確かに、アライグマのぬいぐるみがちょこんと置いてある。


新伊はその女子生徒の言葉を聞き、声を出して笑った。


「ううん、私、アライグマ嫌いなの」

「えーっじゃなんでここに置いてあるの?」

新伊はそのぬいぐるみを手にとり、ニッと笑う。

「―これ見てると、『負けるもんか!』って思うんだよね」

「えーなにそれ?どういう意味―?」

「うーん…コレがなかったら私、スクールカウンセラーになってなかったと思う。みんなとも会えなかっただろうし。だからある意味感謝してるの」


女子生徒たちは皆首をかしげた。

全く意味がわからないのだろう。




オレだけに分かるアライグマの意味。

新伊を苦しめていたアライグマは、今、新伊の原動力になっているようだ。



「えー意味わかんないよ、センセ」

「あはははっいーのいーの。さ、みんな次の授業始まる前にクラスに戻るんだよー!!また後でここにおいで」

「うん、また来るねー!」


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