セロリとアライグマ
佐野は新伊が教室から出て行ったのを確認し、普通のトーンの声で会話を続けた。

「オレだったら無視するけどなー。だってキモイじゃん、手ばっか洗って」

「……」


『キモイ』

手を洗う事がそんなに気持ち悪いか?

ある意味清潔な気がするけど。


「お前、美化委員なんて大変だよなー。あのアライグマとだろ。オレだったら断固拒否だな」

「別に。オレ、大した委員の仕事してないし」

「そーだよな、全部アライグマに任せてセロリはさぼればいいもんな。そういう意味ではラクか」

佐野はははははと笑う。何がおかしいんだろう。


手を洗う、それだけで挨拶も無視。

それでいいんだろうか。

手を洗うのが気持ち悪い、そう思うなら本人にそう言えばいい。


って、オレは頭の中で思うけれど、関わりたくはないんだ。

新伊が手を洗ったってオレにとってはどうでもいいことだ。



だって、オレは新伊の友達でもないし。



でも、それでも、新伊が手を洗う理由はずっと気になっていた。


一ヶ月前のゴミ拾いの後、新伊はそんなに手を洗わなかった。

それが教室に入れば何度も何度も手を洗いに行く。


何が彼女をそうさせているんだろうか。

やはり気になる。
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