セロリとアライグマ
「手ばっかり洗ってるんでしょ?その子」

姉は真剣なまなざしでオレを見る。

「ああ、1時間置きぐらいに十分ぐらいは洗うかな。しかも教室にいるときが特に多い」

「……」

「それと、前オレと外でゴミ拾いしてたけど、その時は大した手を洗わなかった。教室にいるときの方が手洗ってるような気がする。別に汚くないんだけど、アカギレできるくらい洗ってる」

オレはそのとき、女子トイレのドアの窓から見た新伊の横顔を思い出した。

唇をかみ締めて手を洗う新伊は、オレには見えない汚れを一生懸命洗っていた。


「…それって『強迫性障害』じゃない?ワタシ、そっち専門じゃないし、医者じゃないから断言できないけど」

「きょうはくせい…障害?」

初めて聞く言葉だった。テレビのニュースなどでも聞いた事が無い。



強迫性障害?

なんだそれ?



「その新伊さんて子は、手を洗わずにいると頭に何度もいやなことが浮かぶのね、おそらく。その不安を振り払う目的から同じ行動をくり返してしまう病気、って言えば分かる?」

オレは首を横に振る。

全然意味が分からない。


「潔癖症じゃないわけ?」

「外に落ちてたゴミを拾った手をあまり洗わなくても大丈夫なんて潔癖症としてはおかしくない?現実的に言えば外の方がバイキンだらけだし。潔癖症だったらそんなこと出来ないんじゃないの?」

姉の言う事はなんとなく納得できる。

新伊はバス通学だがバスの中で手すりを触れないなどという話はクラスのヤツからは聞いたことが無い。



それにしても一体どういう事だろうか。

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