セロリとアライグマ
だが、新伊に話しかけるチャンスはあまりなかった。

呼び出すわけにもいかず、委員会でも全然話はしなかったし、教室で話すわけにもいかない。

別にオレがどうこうすることでもないか、そう思っていた9月の半ば。



オレはその日掃除当番で、塵を箒で掃いたあと、机を元の位置に戻していた。

同じ班の女子はぺらぺら昨日見たドラマの話をしていて全然掃除しない。


小学校の時は男子が女子に「掃除しろ」と言われたものだった。

しかし今は違う。

肩身の狭いこの高校の男子は文句一つ言わず掃除を真面目にやっている。
オレもその一人。

今日はゼミも無いし、バイトももうやめてしまったので何も無い。

早く家に帰って先日買ったRPGの続きをやりたいから掃除を無言でやっていた。



机を前にずらしていたら、真ん中の列のある机の引き出しからカタンと何か出てきた。

「なんだ、ピッチか…」

オレはボソッとつぶやく。

ピンク色のPHSが床の上に落ちた。オレはそれを拾う。

他の奴らはそれにも全然気づかずまだ話を続けていた。

誰のものかと思い、オレはとりあえずPHSをじっと見つめた。

まぁ見ただけでは名前なんて分からないけれど。

とりあえずそのPHSを自分の制服のポケットに入れ、教卓の座席表を見て誰の机から落ちたものかを確認。


「真ん中の前から四番目…四番目…――あ」

席をたどっていくと、真ん中の列の前から四番目の席は新伊だった。

どうやら新伊のものらしい。



オレは少し考えた。

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