セロリとアライグマ
「ごめん、山崎くん、ちょっと下行ってきていい?」

1時間ぐらい作業していただろうか。

オレ達は合間合間に少し話をしながら色を塗っていた。

面倒な作業だったけれど、話しながらだったからそんなに苦ではなかった。


「いいけど」

「ちょっとご飯支度してくるね」

新伊は立ち上がり、部屋のドアを開ける。



ん?

ご飯支度?

「新伊がいっつもメシ作ってんの?」

「うん。うち、お母さん仕事で帰ってくるの八時過ぎだし。弟が部活から帰ってきたら『メシ、メシ』ってうるさいから作っておくの」

てことは、共働きなのか?新伊の親。

まぁオレの家も母親が近所のスーパーでレジのパートしてるから珍しくもないか。


「あ、よかったら山崎くん、ご飯食べていかない?」

「え」

「イヤじゃなかったら、だけど。もう6時過ぎたし」

オレはポケットのPHSを開いた。留守電が一件入っていることも気づかずに作業していた。

現在6時5分。

腹は減ってきたが、新伊の家でご飯を食べるなんてそんなことできない。

ていうか無理。


「いや、オレ帰るからいい!!もうすぐこれ、終わるだろ?!帰る!」

「そっか。それじゃ終わらせようか」

変な汗をかいた。まさかそんな誘いが来るとは思っても見なかったし。
しかも新伊。


ていうかオレ、何やってんだか。

とりあえず、留守電を聞く事にした。留守電をかけてきたのは姉だった。



実羽の留守電を聞き、オレははぁとため息をつき、チラッと新伊を見た。

新伊はなんとかポスターを完成させようと急いで色を塗っている。

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