セロリとアライグマ
「ど、ども」

こんな程度の挨拶しかできなかった。

オレが顔を上げると、新伊の母親はにっこり笑っていた。

「こんばんは。ゆっくりしていってね。もーホントヒサってばそそっかしいんだから。よく忘れるのよ、この子。前もPHS家に忘れて学校行ったし」

「うるさいなぁ、もうっ。早く着替えてきてよ。ご飯用意するからっ」

「はいはい」

母親は笑いながら居間を出て行った。

なんだかホント仲がよさそうな家だ。新伊だって普通の女の子だ。

とてもこの環境で学校での新伊を想像できない。

 


「山崎くんは進学?それとも就職?」

新伊の母親がオレに聞いてきた。

オレは新伊に出されたお茶をのんきにすすっていた。

新伊は食器を洗っている。
水の音でオレ達の会話は聞こえていないようだが。

母親はオレの前に座って食事をとっていた。

「あ、一応進学です」

「そうよね。これから大変ね。ゼミとか予備校とか行ったりしているの?」

新伊の母親はとても物腰柔らかに話をする。先ほどのキャリアウーマンな姿とは全然違う。

こんなオバサン初めて見た。

中年太りな『The オバサン』のオレの母親につめの垢でも飲ませてやりたいものだ。

「ゼミは一応……。うち、商業高だから普通学科の高校と比べたらかなり劣ってるし」

「そうなのね。うちも予備校通わせてあげたいんだけど、父親がいないからあの子に家事まかせちゃってて。しかも大学も行かないで働くって言うのよ」

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