セロリとアライグマ
9月29日 委員会最後の日
新伊は薄紫色の手帳に、毎日ではないが短い日記をつけていた。

オレは、新伊の家に行って、新伊の部屋でそれを思わず読んでしまった。


読んだ後後悔した。


新伊に見送られて家を出た後、自分の家に戻っても頭の中から離れなかった。




日記の中の苦しそうな『アライグマ』と、家で笑顔をたやさない『新伊』。



オレが苦しくなった。

日記の中にかかれた新伊のきれいな字体には苦しさが滲んでいた。




それでも手を洗う事をやめれない新伊は、一体どうすれば苦しまずに済むのか。
 
オレなんかが考えても分かるはずないのに、どうしても考えてしまう。



きっとそれは、数Ⅱの問題を解くより難しい。





次の日学校へ行くと、オレは新伊と全く話さなかった。

新伊もまた、オレと話さない。

新伊はオレに気をつかっているのだろう。
自分と話をしたら女子にどういう目で見られるか分かっていたからだ。


新伊と話そうとしないオレも、なんだかんだ言って他人の目を気にしている。


嫌がらせの中心女子5人は、何かにつけて「アライグマ、キモイ」だの「学校来なければいいのに」だの言っている。


別に新伊は迷惑なんて一つもかけていないのに。

ただ手を洗うだけなのに。



人を嫌うことでしかつながる事の出来ない女子のグループ。

見ているだけの回りの奴ら。

その中の一人のオレ。



そんな毎日が続いた。普通に続いていた。

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