セロリとアライグマ
誰もいない自転車置き場、サドルにまたがった瞬間後ろから声が聞こえた。


新伊だった。



「何?」

「こないだ、ありがとう。家までピッチ届けてくれて。それだけ言いたくて」

ああ、そうか。

おそらく皆がいないタイミングをはかっていたのだ、新伊は。

オレに話しかけるとまた誰かに何か言われると思ったのだろう。


「これからゼミ?」

「ああ。新伊は?帰るの?」

「うん、ちょっと寄る所あるんだけどね」

新伊はにこっと笑った。

「病院、行こうと思って」

「?風邪でも引いてんの?」

「駅前の総合病院。そこに精神・神経科があるって聞いたの」

「!」


それって…それって……



「……手、洗うから?」

オレは小さな声を出した。

新伊は嫌な顔一つせずこくんとうなずく。


「山崎くん、こないだうちに来てくれた時、うちのお母さんとワタシの話してくれたんでしょ?お母さん、それを聞いてワタシを病院に連れて行こうと決心したって言ってた」



なんか、オレが新伊の母親にチクったみたいに思われただろうか。

そんなつもりじゃなかったんだけど。


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