セロリとアライグマ
オレはうざそうに手を挙げた。

佐野が『マジで?!』と口をぱくぱくさせている。

面倒だが、そんなのもうどうでもいい。とにかく新伊を助けてやりたかった。



友達でも彼氏でもなんでもない新伊だけど、とにかく新伊を助けてやりたかった。



「えーセロリ、別に無理にやんなくてもいいじゃん。放課後ゼミあるんだし、前期やってたんだし」

遠くの席から高西がオレに声をかける。

そんな心配オレにしなくていいから新伊をこれ以上苦しめないでほしかった。

「いいよ。オレ、別になんにもしてなかったから」

オレは小さい声でボソッと言う。

「なおさらやんなくていいじゃん。アライグマ一人でいいんじゃない?」

「ゆかり、ばっかじゃないの?アライグマは『一匹』だよ」

「あはははは。そっか、数え方間違えちゃった」




新伊、負けるな。

こんな心無い一言に負けるな。



友達でも彼女でもなんでもない新伊だけど、オレは願わずにはいられなかった。

手を洗わないように一生懸命こらえている新伊を、願わずにはいられない。



「カナ、ちょっとタンマ」

「?何、サト」

「アライグマじゃだめだよ、委員」

「えーなんで?」

新伊の後ろに座っている伊藤聡美が今井の話をさえぎり、半笑いを浮かべた。

オレはいやな予感がした。




「だーって、アライグマ、精神異常だもん」

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