ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
『おかげで人との交わり方を忘れたような気がしている。』


文面から伝わる不器用さに、読み終えた後、胸が重苦しくなってしまった。

誰にも頼らず生きてきたようなところが、きっとこの人にはあったに違いない。



「母の命日に家にいるのは嫌いなんだ。自分一人が取り残されていくような気がして堪らない気分に陥る」


やり残していた仕事を見つけてやり始めていたら朝になった。
うっかり眠り込んでいたところへ私が出社してきたらしい。


「この後、一度自宅へ戻る」


そう言って背中を向けようとした人の腕を思わずぎゅっと捕まえてしまった。



「片桐さん…」


ハテナマークは付いてない感じの声の掛け方。
でも、私は必要以上に表情を固めていたと思う。



「待って下さい」


家に帰るのなら送っていく。
その前に、どうしてもこの人を抱きしめてあげたい。



「失礼します」


言うが早いか、ぎゅっと背中に腕を巻きつけた。
瘦せぎすな胸板に顔を埋めて、ぎゅっと固く目を閉じた。


「片桐さん……」


動揺をしているような社長の声も耳に届いていた。
でも、どうしても離したくなかった。


「少しだけでいいですから」



社長を……
祐輔さんをホッとさせたい……。



私はこの1週間、ずっとそうしてあげたいと思っていた。
そう思う度にあの手紙を取り出し、ふわりと優しい風のような気持ちでかき抱いてきたんだ。


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