ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
私も社長の大事な人間の一人になりたい。
心を許して、甘え合えるような関係になってみたい。



「社長……」


ううん、祐輔さんと呼ばせて。


「祐輔さ……」


ビクン!と彼の体が浮いた。
少しだけ体を引いて顔を見上げると、目を丸くして表情を強張らせている。


驚かせてしまったんだと気づいた。

人とは深入りした関係になりたくないと書いていた、身上書の一文を思い出した。


『母が亡くなった後、僕は誰かと別れるのは懲り懲りだと思った。誰かと深い関係になって、その人の死を見送るのは嫌だ。
何もできずに送ることになるのなら浅い関係だけでいればいい。その方が胸が痛まなくて済む。』


確かにそうだと思う。
でも、私は彼に深入りして欲しい。


「社長の……祐輔さんの特別な人間の一人にして下さい。私は……貴方のことを…好きです……」



いつの間にか胸の奥に滑り込まれた。

後にも先にもこんなに気になる人はいない。

この男性に甘やかされる自分を想像したらドキドキする。

この人に抱かれたらきっともう離れたくなくなる。



「社長は……どうして私にあの身上書を渡してくれたの……?」


その答えがずっと気になっていた。
何度も断ったのに、家に電話をしてまで約束を掴もうとした意味を知りたい。




「僕は……」


重そうな唇を開いて声が出た。

その唇の先を見つめながら、高ぶる胸の音を耳いっぱいに感じていた。



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