ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2

社長とファミリア

一瞬意味がわからず、ぼんやりとして社長の顔を見つめた。彼は私から視線を外すと、フラつきながらデスクへと回り、凭れ込むようにして椅子に座った。



「片桐さん」


いつもと同じように抑揚のない言い方で呼ばれ、小さく「はい」と、擦れそうな声を出す。


「僕の代わりに運転を頼んでもいいか」


顔を見ながら聞く人にノーという返事はできない。



「はい…わかりました」


了承する言葉を返し、差し出されたキーを受け取る。


「向こうで待ってていいから」


目を合わさず、キーを握った手元だけを見た。

他には言葉を掛けてこない社長に背中を向け、二、三歩だけ前に進む。

頭の中では、「真心を送りたい」と言った社長の言葉が渦を巻いていた。

「愛」と書いて「真心」と読める人を好きになりなさいということはつまり……


(つまり、それは愛を送りたい…という意味?まさか、社長は私にそういう意味でそれを言ったの……?)


振り返ると、椅子に座っていた人が立ち上がり、スーツの上着を羽織ろうとしている。
眠気のせいかぎこちない動作が気になり、逆戻りして肩口を摘んだ。


「あ……」


驚いたように顔を向けた社長が、眠そうな顔を綻ばせる。


「サンキュ」


こんな場所でそんなふうに砕けた言い方をするのか。
そんなに微笑まれたら、私の胸がどれほど疼くかも知らないで。


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