ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
水晶玉の繋がった数珠を掛けさせてもらい、深々と頭を項垂れた。
自分の家の宗派の念仏を唱え、目線を上に向ける。



写真の中のお母さんは、とても若く見えた。
彼が中学二年生の時に亡くなったのなら、一体何歳だったんだろうか。


じっと目を凝らしたまま顔を見つめていると、スルッと障子の開く音がして振り返った。
鈴木さんが丸盆にお茶を乗せて、わざわざ運んできてくれたんだ。


「…どうもすみません」


仏壇の前を離れ、置かれてある座卓へと移る。
鈴木さんは無言のまま私に茶托を差し出し、「どうぞ」と言葉短く声をかけた。


そのまま黙って、側にじっと座っている。
熱いお茶は苦手だけれど、飲んだ方がいいもんだろうか。



「い…いただきます…」


声を発してから丸っぽい湯呑みに触れた。
思ったほど熱くもなさそうで、そのまま上に持ち上げて飲んだ。



「……奥様の話は聞いていらっしゃるんですね」


奥様という声を聞き、社長のお母さんのことを示していると思った。


「…はい。伺いました」


本当は社長から直に聞いたわけではないけど。


「そうですか」


気の抜けたように囁き、「では…」と去ろうとする。



「あ、あの…!」


様子が気になって声をかけた。
立ちがろうとした人が不思議そうに振り返る。


「何か」


ゴクンと口の中に残るお茶の香りを飲み込み、私は鈴木さんに聞き返していた。


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