ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
『朝からずっと飲んでいるの』


お袋さんの話し相手が、たまたま寺の住職をしている俺達の父親だったから幸いした。
父親はお袋さんに対して、あまり飲まさない様にした方がいいとアドバイスをしていた。


最初の騒ぎが起こったのは、それから半年経つか経たないかくらいの頃だと思う。

幼い大輔を胸に抱え、お袋さんが寺の母屋に逃げてきた。


『お願い!匿って!』


母親と父親は髪を振り乱して訴えるお袋さんに何があったのかと聞いた。
顔面を蒼白にしたお袋さんは、ガタガタと震えながら話をしていた。




『……暴れる?』


母親の言葉を最後に向こうへ行ってなさいと言われた。
それからも何度か、お袋さんはウチの寺に逃げ込んできた。


「シェルター」だの「アル中」だのという言葉を聞くようになったのはその頃からだと思う。

連日のように怒鳴り声が聞こえ、何かが割れる音やお袋さんを殴っているという噂までが飛び交った。


あの頃の大輔はいつも大きな物音に怯え、鉄砲オモチャの炸裂音をでさえも、聞くとビクッと肩を揺らした。


俺には大輔が傷つけられているのを見た記憶はないが、お袋さんが大輔を庇い、自分が打たれたり蹴られたりしているんだと両親は話していた。



『別れてしまいなさいよ』


母や父はそうお袋さんに勧めていたと思う。
でも、お袋さんは頑としてそれを拒んだ。





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