ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
(あんなに指に吸い付いてくるほど懐いてるのに…)


大きな口を開けて何度も指を吸おうとしてた。
私の時よりも派手に水を飛ばし、過剰な愛情表現を示す金魚なのに。


(私のこともこのホタルと同じで、アッサリ忘れてしまえるのかな)


自分が虚しく思うのは、そんなふうに当てはめて考えてしまうせいだ。

幾ら心配してもどうしようもないことだというのに、大輔さんのことを考え過ぎると時にイライラしてしまう。


あまり深く考えずにいた方がいい。私が気にする程、大輔さんは私のことを気にかけたりしてない、きっと。



苛立ったままオフィスへ向かった。

商品開発部にいる間は、さすがに何も考えられないくらいに緊張して働く。


大輔さんからはあの後何の連絡もこなかった。

お昼休みになってからも考えずにいようと思い社食へ向かうと、真綾と聖が出入り口付近で待ち構えていた。



「あっ、来た!」

「蛍!」


背を伸ばすように手を振る。


「ごめん。待った?」


慌てて走り寄って行くと、二人は声を揃えて「ううん」と言った。


「待ったのは私達じゃないよ」

「あの人」


真綾が廊下の端を指差す。

社食の壁に沿って伸びる廊下の端っこに佇んでる人影が見える。わざと顔を隠してるようだけど、どう見ても副社長の彼だ。



「ケイ、大輔さんと喧嘩でもしたんでしょ?」


「ううん、別に。どうして?」


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