ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
会議室のドアを開け、一番最初に出てきた人と目が合った。


これまでは廊下で擦れ違っても頭を下げて通り過ぎるだけの人だった。

真綾からどんぶりで金魚を飼ってると聞いた時も、変な人だとしか思わなかった。

特別な感情も湧かず、話もしづらい上司だったんだけど。



「やぁ」


唇が微かにカーブする。
持ち上げられた口角を見つめながら「お疲れ様です」と頭を下げた。


「昨夜はごちそうさまでした」


立ち話を始める私と副社長の姿を経理部長を初めとする上役達がちらちら見ていく。



「いや…」


黒縁メガネの奥の眼差しが細くなる。
間違ってもきゅんとしたらいけなかったのに、胸の中がくすぐったくなった。



「横山さん、ちょっと」


ついて来いと言わんばかりに踵を返される。
ドキンと跳ねる動悸を抑えながら後ろ姿を追いかけた。



(どうしたって言うんだろう。……何かあった?)


疑問という名にすり替えたくなるような動悸の波。
副社長は小会議室が使われてないのを見つけると、カチャ…とドアを押し開けた。



「どうぞ」


背中でドアを押さえ、私に入るよう促す。


(……ごめん。ケイ)


頭の隅に副社長の彼女の顔を浮かべながらするりと入室した。
副社長は辺りを見回してからドアを閉め、私の方に振り返った。


「何かありましたか?」


向きを変えた人に尋ねた。


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