ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
「大輔を好きなら好きでいいじゃん。認めてみろよ。その方がきっとラクになれるぞ」


無責任なことを言う。
そんなことをしたって、誰もいい気持ちになんてならないのに。



「……私は、副社長のことなんて何とも思ってないってば!」


狭い車内に響いた声を自分のものだとは認めたくなかった。


「私はケイの彼だという人を好きになったりしない!あんたを副社長の友達だと思うからガマンしてやってたけど、気持ちを逆撫でするのならやめて!もう二度と会わないから送って!とっとと帰して!!」


道がわかるならタクシーでも帰る。
でも、この辺りの地理には詳しくない。


喉の奥から声を張り上げたせいで、喉元がカラカラに乾いていた。
その口腔内に唾液を送り込むと、キリリ…と痛みを感じる。


「ゲホン!」


咳き込みだして慌ててハンドタオルを取り出した。

ゲホン、ゲホンと繰り返して咳き込むから余計に喉が痛くて苦しい。



「大丈夫か?」


運転席の男が手を伸ばす。


「い、いから…」


手を払い除けて体を反転させた。


「早く、送って」


シートベルトを引っ張りながら声を抑えて頼む。



「…………」


無言のままシートベルトが締まる音がした。
走り始めた車の中で、ボロボロと涙が溢れ出してきた。



(泣き声なんて絶対に出さないから…!)


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