ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
今やっている仕事が終わる頃の時間を指定した。
副社長は「うん…」と声を返して、受話器を下ろしてしまった。



「どうしたんですか?」


受話器を握ったまま神妙な顔つきをしている私を覗き込む後輩。


「何かミスりました?」


あんたじゃあるまいし。


「何も。ただちょっと上に呼び出されたから、後10分程したら席を外すね」


その後は自分でなんとかしなさいよ…と言い渡し、ドギマギする胸の内を隠しながら処理を進める。


15分という時間は意外にも短かった。
いつも以上に数字の打ち間違いが多く、有能な自分でもやはりただの女なんだと思い知った。


部署を少しだけ早く出て、トイレへと向かう。
緊張をほぐす為に行こうとしていた矢先、エレベーターの扉が開いた。



「あっ……」


スライドしながら開くドアの奥に見つける相手。
その眼差しが向けられて、ドクン…と鈍い心音が響いた。


「丁度良かった」


フワッと柔らかい笑みを見せられた。
ケイの彼だと知っているのに、動悸が思わず速くなってしまう。


「…あの、先にトイレに行ってもいいですか?」


先ずは少しだけ落ち着こう。
誰かに告るなんて、高校時代の部活の先輩以来だから。


「いいよ」


向こうで待ってると指を差した人の背中を見送る。肩幅の広さと真っ直ぐな背筋に胸が疼く。
広い胸板に抱かれる自分のことを想像して、思わず赤面してしまった。


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