ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
(バカだ……)


呆れながら女子トイレのドアを押し開ける。
洗面所の鏡の前で前髪をセットし直し、「よしっ!」とばかりに気合を入れた。


(いこう!)


何も考えずにいよう。
ケイのこともあの憎たらしい男のことも。

私は片思いに近いこの感情を、ただ副社長に理解して欲しいと思っているだけだ。


それを知って彼がどんなふうに驚くか。

どんな言葉をかけてくれるのかが知りたい。

あわよくば自分の妄想通りになって、彼の腕の中に抱き締められたら嬉しい。

大事な友人を裏切っても、自分の想いが成就してくれるのならーーー



真っ黒い感情に押し流されながら中会議室のドアをノックした。
アルミのハンドルを下げつつ、目線を若干下向きにドアをくぐる。


会議室の床に敷かれたグレーのカーペットを黙認した。
それからその先にある円形に配置されたテーブルと椅子も眺める。

副社長はドアから死角になる位置に椅子を置き、両足を組んだ格好で座っていた。
その姿を目で確認してから、ゴクン…と唾の塊を喉の奥へと押し込む。



「お待たせしました」


震えそうな声を低めて囁く。
私の方に視線を向けた彼は、「忙しいのに済まない」と声を発した。



「いえ…」


機械的なことわりを言い、彼に近づく。
どの距離までならいいのかわからず、2メートルくらい空けて立ち止まった。


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