ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
カタン、と椅子から立ち上がった副社長の全身がほぼ見える位置で、私は息を吐きつつ尋ねた。


「何か」


聞きたいのは昨日のことだというのは既に知らされている。
あの羅門という男がこの人に、何をどう話したのかは見当もつかないけど。


「羅門から君に伝言を頼まれた」


副社長はそう言うと、口元に笑みを作って教えてくれた。


「昨日は付き合わせて悪かったって。自分の言った言葉で、君がイヤな思いをしただろうと思うって」

「な……」


何を今更のように。


「頼むからバカなことだけはするなと言ってくれって。誰も望まないというのは、君が一番解ってるだろうからと…」


窺うように顔を見つめる。
望まないことの意味を、この人は知っているんだろうか。


「何のことだか俺にはサッパリ意味不明なんだけど」


明るく小ざっぱりとした口調で付け足された。
その声の明るさにホッとしつつも、昨日あれだけ煽るように言った男のことを思い出した。


「昨日はどうだったんだ?」


改めて何も知らないふうな彼を見つめ直す。
いつもと違う風貌の私であることに、まだ気づいてはいないんだろうか。



(…やっぱり、何も言ってもらえないんだ……)


わかっていたことだけど辛い。
これが自分とケイトの違いなんだと、ハッキリ認識させられた。



「あっ」


落胆に肩を落としそうになった時、思い出したような声がした。


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