ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
それはないよ、ケイ…と呟きを増やし、仕方なさそうに文字を送る。


『一度だけならいいよ』


この間は二度と会わないと言った。
前言撤回なんて好きじゃないけど、素直に謝ってきたから許してみようという気になった。


ーーーーーーーーーー


そうして今、この店に来ている。
残念ながらケイも副社長も予定があって来れず、私は一人で電車とタクシーを使ってやって来た。


「とにかく、どうでもいいから食え」


店に入った時と同じくらいクールな態度を見せる羅門という男を睨みつけ、私はスプーンの先を皿の中に滑り込ませる。


「いただきます…」


危うく言い忘れるところだったと思いつつ、掬い上げたお肉を口の中に頬張った。


「ん………」


噛み締める程もなく、お肉は口の中で蕩けて無くなった。


「えっ………」


後にも先にも、声が出せないくらい美味しい味。



(気のせいよね)


確かめるように掬い上げた肉の欠片は、二口目もやっぱりすぐに蕩けてしまう。



「どうだ?」


上から覗き込む格好で見下ろしていたコックは、心配するような目で私の表情を窺っていた。



「お…いしい……」


悪い味だったら絶対に酷評してやろうと思ってたけど。


「お世辞抜きで美味しいわ」


箸が止まらない。…じゃなくて、スプーンが止まらない。

モグモグ…と食べ進めてみれば、コックはいつの間にか厨房へと戻っている。


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