ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
「どうしたの?真綾」


敏感な雰囲気の変化に気づいて、蛍の視線が私を見つめる。


「ううん、何でもない」


努めて明るい表情をして声を出した。
物事をあまり深読みしない蛍が、アッサリとそれを信用する。


「なら良かった」


その後は社長のことは話さずオフィスへと着いた。
更衣室へ立ち寄る二人と別れ、エレベーターで最上階へ向かう。


この1年と半年の間で、今日ほど気持ちが落ち込んでいるな…と思う日はない。
蛍に「社長からの誘いもないと思う」と答えたことで、自分が一番落ち込んでいた。



(私、期待していたんだろうな……)


社長がきっとまた誘ってくれるだろうと期待していた。
この間の土曜日が楽しかったから、必ず誘われるもんだとばかり考えていた。



(そんな都合のいい考え方、よくできるよね)


彼女でもなければ友人でもない私。
ただ、上司と部下というだけの間柄なのに。



(はぁ。落ち込む……)


ショボン、としたまま廊下へと出た。
秘書室へと向かい、中にある荷物置き場に私物を置き、羽織ってきた薄手のコートをハンガーに掛ける。


第一秘書の宇田川さんは今日はフレックスで出社してくると聞いている。
…ということは、午前中はほぼ一人で仕事をこなしておかないといけない。

社長や副社長が出社してくる前に掃除だけは済ませておこうと思い、ダスターを手に社長室のドアを開けた。



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