残り香
夏海へ
こんな風に手紙を書いたのは何年ぶりだろうか?
と言うよりも手紙をこんな風にちゃんと書くのは初めてだと思う。
夏海がまだ小さな時に俺達は出会ったよな。
晴兄ちゃんって笑顔で俺の名前を呼ぶ夏海は可愛かったな。
妹みたいで兄妹が出来たみたいで初めは嬉しかった。
だけど妹みたいに思っていた夏海が、どんどん成長していくと、妹みたいに見れなくて、いつしか一人の女性として見ていた。
俺は夏海に恋をしているんだとその時に気づいた。
中学生に上がると思春期もあり、夏海にどう接していいのかも、顔を見るのも恥ずかしくて、夏海の家にも行かなくなった。
そんな俺達は十五年ぶりに再会をして、お互いが初恋の相手だと知った時、あの頃の気持が蘇ると、夏海を離したくない、誰にも渡したくないって思ったんだ。
あの時にキスをしたのはもしかしたら無理やりだったんじゃないかってちょっとは反省してる。
だけど付き合う事になって、昔抱いていた恋心よりも遥かに夏海の事が好きになっていった。
仕事も忙しいけど、夏海が居るから頑張れて、夏海に会える日は嬉しかった。
こう言う事はいい大人だから普段は口に出して言えなかったけど、俺はそれくらい夏海を愛している。
だけど昔に自分の気持に気づいて、自分から夏海を避けたように、上手く気持ちを伝えられなかった時の為にこうして手紙を書いたんだ。
もし上手く伝えられた時は、返事によるけど、この手紙を書いてたんだぞって二人で笑い合って読めてたらいいな。
夏海
俺は夏海にどうしても言いたいことがあります。
俺と結婚して下さい
愛してる
晴よりーー
この手紙を読んで涙が頬を伝う。
「晴の馬鹿っ、手紙を読んでも晴が居なきゃ返事できないでしょっ……」
そして私は箱を手に取り開けると、そこには小さなダイヤが光る指輪が入っていた。それを私は左手の薬指にはめる。
「サイズ……ピッタリだし」
私はまた涙を流した。
すると何かが私の頭に触れたような気がした時に、いつも部屋に残る晴の匂いがした。
「晴は私の側に居てくれてるんだね。思い出も、温もりも、香りも、全部残して私の前から消えていくなんて……まるでピタリと家に来なくなった時と同じなんだから。そうだ、プロポーズの返事しなきゃね?私も晴を愛してる、だから、生まれ変わったらその時はまた私を探しだしてね?そしたら結婚してあげるから……」
そう言葉にした瞬間に、あなたの香りが私をいつまでも包んだーー