テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
「キスのことだけ黙っとけばいいんじゃない?」
人の声と音楽が混ざり合った雑音の中に微かに聞こえた声。
紗乃…。
さっきから下を向いてばかりいた私。
きっと全部、お見通しなんだ。
「紘那のことだから、内緒にするのは辛いんでしょ?そしたら、告白されて断ったって話だけして、詮索されなければそこで話を終わりにしちゃう。もちろん、聞かれたらちゃんと答える」
私の耳に囁かれたアドバイスは、相変わらず的確で、説得力のある言葉だった。
私は幸せ者だよ。
こんなに素敵な友達がいるなんて。
「うん」
私は頷くと、また前を見た。
観衆から一斉に拍手が湧く。
どうやらなーちゃんのダンスが終わったみたいだ。
私は腕に巻かれた、少し汚れた腕時計を見た。
あと少しで私の当番の時間だ。
「紗乃、ごめん!私そろそろ行かなきゃ!」
紗乃はあぁと笑顔で頷く。
「私もちょっと用事ができたから、ちょうどよかった」
私たちは、放課後に一緒に帰る約束をして別れた。
運が悪かったら、文化祭中はもう会えないかもしれないからね。
田舎の学校は無駄に広いから。
午後1時を過ぎて、少し風が出てきた。
寒さで自分のものじゃなくなったみたいな指を握りしめて、私はクラスの屋台へと戻っていった。