テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
募る想いは

「ただいまー」


ガラガラと家の引き戸を開けたのは、夜の8時。
ちょっぴり早く、打ち上げを抜けてきたのだ。
いや、正しく言えば「逃げてきた」なんだけども。
結局クラス全員は集まらなかった打ち上げ。
マイクはすぐに回ってきた。
私は、カラオケでは専らShootingしか歌わない。
だから、こんなとき、何を歌えばいいのかも分からなかったし、もちろんレパートリーもなかった。
考えた挙句に歌ったのは、最近蒼君が主演していたドラマの主題歌。Shootingの中でも知ってる人が多い曲かな、と思ったのだ。
でも、不覚だった。
いつもは仲がよく、気心が知れた人としかカラオケには行かない。だから、踊りながら歌うのが普通だと思っていた。

私はクラスの子たちが引き気味なのにも気づかずに、踊りながら歌い通した。
それがかなり恥ずかしいことだって気づいたのは、歌い終わってからだった。私は妙な空気に耐えきれずに、少ししたあと帰ってきてしまったのである。

紗乃は絵に描いたような呆れ顔をしていた。
火曜日から学校行くのやだなぁ。
みんな、今日の私が歌ったところの記憶だけ忘れてくれないかな。

そんなことをぼんやり考えながら、窓の外を眺めた。

ぶーっ

光る携帯の画面に私は目を落とした。
澪君かなと思った通知は、この前紗乃と行ったラーメン屋で、割引券目的で友達追加したアカウント。
『今ならトッピング無料』の文字が、切なく光っていた。

そういえば、明日から澪君のドラマがオンエアされるんだ。
録画しとかなきゃなぁ。


『なんで澪君は紘那のこと、好きになったんだろうね』


紗乃の言葉が脳内で再生される。

聞いてみたい。
知りたい。
すごく気になる。
でも、聞くなら直接がいい。
目の前で、澪君の言葉で聞きたい。


「我慢だーーー!!!」


私は窓の外に向かって叫んだ。
田舎だから誰にも聞こえないもんね。

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