テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
駅はすっかりクリスマス。
小さなクリスマスツリーが飾られ、駅員さんもサンタ帽をかぶっている。
駅から離れるほど田舎くさくなっていく帰り道の木々にも、小規模な電飾がちまちまと施されていた。
クリスマスかぁ。
ーー澪君、どうやって過ごすんだろう。
文化祭以来、私は澪君と会っていない。
そして、次に会う約束もない。
遠距離恋愛をテーマにしたラブソングにも、随分詳しくなった。
現実で会えないなら夢で!と、枕の下に澪君が表紙の雑誌を入れたりもしたが、そう上手くはいかず、澪君と会えるのはやはりテレビだけだった。
一方的に会いにいく予定ならある。
先日、見事に年越しライブに当選したのだ。
大晦日恒例の音楽番組に中継もするらしい。
うん、楽しみ。
楽しみだけど、きっと澪君は私が来たのに気づかないんだろうなぁ。
まだ言ってないし。
『今日は仕事4つもある』と一昨日届いた澪君のメッセージに、『お疲れさま』と私が返信してから、時が止まったままのトークルーム。
プライベートという概念のない紗乃は、堂々と私の携帯を覗き込んだ。
「そういえば、澪君とはうまくいってんの?」
「うん」
久しぶりに見る紗乃の険しい顔に、私はとっさに答える。
うまくいってるのはいってる。
あれからいくまるも何もしてこないし…。
澪君から連絡がこないのは寂しいことだけど、それを承知の上で付き合ったんだから、仕方ない。
だって相手はアイドル。
今話題の…人気急上昇中の…
「ふーん」
気づくと、紗乃は私の数歩前にいた。
もう、私の家の前である。
「まぁ、もし、1人寂しくクリスマスバースデー過ごす時にはさ、私に声かけてよ。…いつでも飛んでくから!」
私に背中を向けたままの紗乃に、私は「ありがとう」とだけ答えた。