テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
「洗面所借りてもいいですか?」
澪君の前。
一刻も早く顔を綺麗にしたい。
「いーよ!あ、タオルは出てるの好きに使って。あと…」
ちょっと待ってて!と彼はそのままリビングを飛び出した。
あーあ、火つけっぱなし。
危ないなぁ。
私は火を消すと、息をつく。
普通の人には刺激が多すぎる。
彼はすぐに戻ってきた。
手には紺のロゴ付きパーカーと細身のジーンズ。
受け取って広げてみる。
ん、女物!?
目をパチクリする私。
きっと分かりやすかったのだろう、彼は「それ妹のだからー」説明してくれた。
私はほっと胸をなでおろす。
「昔はさ、親と喧嘩するとよく家出しに来てたんだけど、最近一人暮らし始めたらしくって来ないからさ」
くすくすと笑う彼。
少し意地悪そうな顔をする。
「彼女のだと思った?」
「あ、べ、別にそんなっ…それよりこれ着ちゃっていいんですか?」
焦る私を面白そうに眺めながら彼は頷いた。
「いいよいいよ、もう着ないやつ置いてっただけだから」
「本当にありがとうございます」
ぺこりを頭をさげる私。
澪君は寝癖の残った髪をいじりながら「いいのいいの」と手を振っていた。