テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
プリクラの撮影場所を出ると、落書きをする場所に移る。
その頃には澪君はさっきのことがまるでなかったかのように普通だった。
やっぱりファンサービスなんだ。
ペンを手に「面白れぇー」と楽しげに笑いながら落書きに没頭する澪君。
どうしてそんな普通にいられるのだろうか。
タコみたいになってる私が馬鹿みたいだ。
澪君は自分に猫耳の落書き、私にはうさ耳の落書きをそれぞれ施すと、子供のように「見て見て!」と私を呼ぶ。
ちょっぴり下手くそな澪君の筆跡で、それぞれの名前も書かれていた。
「友達から見せてもらった時こんな感じだったんだよね」
彼は出来上がったプリントシールを見つめながら呟いた。
「高校生の頃はもう仕事があったからさー、 あんまり青春できなかったんだよね」
そう。
澪君は小学五年生の頃には既に事務所のオーディションに合格していた。
そしてデビューしたのが高校生。
忙しかったはずだ。
ろくに高校にも行けなかったのだろう。
「アイドルは青春しちゃいかんのかねぇ」
わざとらしい口調で伸びをする澪君の横顔は、なんだか切なげだった。