テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
駅でコインロッカーから荷物を取り出すと、私は澪君にお礼を言った。
たくさんお金も使わせてしまった。
「今度また改めてお礼させてください」
改札口の前で私は立ち止まる。
「今回は俺が紘那ちゃんに恩返しした感じだよ。あんなにグッズをたくさん…だから気にしないで!ね?」
澪君はそうへらへらと笑っていた。
「じゃあ」
私は下り電車で澪君は上り電車。
改札を通ってから向き直り、手を振る。
「私、今日のこと一生忘れないよ」
「俺もー」
ハットの奥の彼は「またね」を言うとすぐに背中を向けてしまった。
Shootingのメンバー内でも特に細く華奢な澪君の後ろ姿はなんだか弱々しかった。
遠ざかる彼の背中を眺めながらぼんやりしていると、時刻通りに電車が到着した。
扉が閉まるのと同時に、私の夢じゃなかった夢が終わる。
明日からはいつも通りの夏村紘那だ。
いつも通りの世界だ。