テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
駆け足で駅に向かう。
高校生や眠そうなサラリーマンを追い抜いて、なんとか閉まりかけた電車の扉に身を滑らせる。
セーフ。
空いていた席に座り、携帯を開く。
『おはよう。今日も早いね。お仕事頑張って!』
さっき返せなかった返信をして、私はふぅっと息をついた。
「誰それ」
目の前に感じた気配と降りかかってきた声に顔を上げると、そこにはイヤホンを片耳だけはめたいくまるがいた。
あれ以来会っていなくて、少し気まずい。
「あ、べ、別に?
そ、それよりこの前はごめんね」
「は?あぁ、気にしてねーよ」
腑に落ちない顔で俯きがちに目をそらすいくまるは、なんだか見たことない表情をしていた。
しんと静寂が降りる。
なんでこんなに沢山つり革余ってるのに私の前に立つのかな!
気まずいんだよ!!!
そう思っても言うことはできず、私はなんとかその空気に耐える。
背の低いいくまるは、左手をピンと伸ばして、一生懸命つり革に掴まって揺れていた。