テレビの向こうの君に愛を叫ぶ
「なんで片方しかつけてないの?」
私はでろっと垂れたイヤホンを指差す。
「紘那と話せるように」
あっちの方を見たまま、いくまるはそっけなく答えた。
「あのねぇ、だったらもう少しあんたから話しかけようとか、そういうのはないの?」
いくまるは私を一瞥すると、またぷいとそっぽを向いて、「ない」と一言。
ほんと、なんなのこいつ!!!
だんだんイライラしてくる。
私よりワンランク上の高校に通うあいつは、次の駅で降りる。
よかった、やっと解放される。
「…………よ」
いくまるの口が動いたが、電車のすれ違う音にかき消されて最後の「よ」しか聞えない。
「なに?」
私は首を傾げた。
「聞こえないよ」
いくまるは私を見下ろす。
少し冷たさをはらんだ視線が突き刺さる。
「…そろそろ、気づけよ」
プシューッと音を立てて電車の扉が開く。
それと同時に、逃げるようにいくまるは電車を降りていった。
「何によ…」
私の言葉に答えてくれる人はいない。
ちゃんと言ってくれなきゃ分からないじゃん。
私は窓の向こうで、小さないくまるが人ごみに呑まれていくのをただ眺めることしかできなかった。