テレビの向こうの君に愛を叫ぶ

「ねぇ」


「なに?」


「それ、わざわざ…?」


「は?いいから、来いよ」


少し強引に腕を掴まれて、傘の中に引き込まれた。
ぱたぱたと傘に雨が当たる音が聞こえる。
歩き出したいくまるに歩幅を合わせた。
水溜りを避けて歩くと、たまに肩と肩がぶつかり合った。

秋の雨は冷たく、肌を刺すようだった。
夏から遠ざかるほど、カエルの声も聞こえなくなっていく。

家までの道はあっという間だった。


「じゃあな」


柄でもなく手なんて振っちゃって。
塾の時みたいに家まで送ってくれた。

いくまるは素直じゃない。
本当に素直じゃない。

初めて塾で会った時から不器用で、そっけなかった。
でも、ずっと優しかった。

紗乃がいくまると付き合うことを勧めてくるのはよく分かる。
だって、無口でも優しくて、よく周りを見てるから。

でも、いくまると話しても、あんなに近くにいても、心がきゅぅってならないんだ。
苦しくならないんだ。
それって、恋じゃないってことだよね。


私は自分に正直でありたい。
たとえ自分に嘘ついて好きになったとしても、それはきっと長くは続かない。
自分に嘘をつく自分が嫌いになって終わりだ。

だったら私は手の届かないような人でも追いかけ続ける。
それで孤独死したって別にいい。

それって綺麗事かな。
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