スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
第1章
Floor 1
どこからか風に乗って舞い散る淡い桃色の花びらが、はらりと地面に落ちる。
快晴の空の下、川沿いのベンチに座り俯いていた私は、心浮かれるようなうららかな春の日に似つかわしくない深く重くるしい息を吐いた。
右手に握りしめたスマートフォンはひと月前に新規で購入したもの。
アドレスだって新しく取得した。
それにも関わらず……
「もー……どうしてまた来るの……」
思いの外疲れた声が溢れて、そろそろ限界だと痛感する。
私を悩ますもの。
それはなかなにかやっかいな"者“で。
ブル、とスマートフォンが短く震えて私は体を強張らせた。
恐る恐るメールを開くと、その文面にまたしても好天に不似合いな溜め息を吐き出してしまう。
本日5度目となる"彼"からのメール。
『今日は休日だね。たまには僕とデートしてよ。寂しいな』
たまにはも何も……私は彼を知らない。
誰なのかもわからない相手から、何度ブロックして逃げようが、新しいフリーメールアドレスから送信されてくるのだ。
時々かかってくる無言電話もきっと同じ人からだろう。
どこで私の番号やアドレスを入手しているのかはわからないけど、ひとつだたけハッキリしていることがある。
それは、彼が俗に言うストーカーだということだ。
最近では帰宅した瞬間にお帰りメールもあったし、ちょっと身の危険を感じていたり。
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