スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「地震か」

「揺れてないですよ」

「いや、世界が歪んでる」

「それはお酒のせいです」

「俺は酔っていない」

「はいはい」


酔ってるところを見たことがないと思っていた数分前の私に言いたい。

彼は酔うとちょっと頭が弱くなるんだと。

これはしばらくまともな会話はできないだろうと予想した私は、とりあえずお水でも飲ませようとキッチンへ向かった。

透明なグラスをひとつ手に取り、ウォーターサーバーから天然水を注ぎ入れる。

そして、彼に私に行こうと踵を返した私の視界に飛び込んできたのは。


「……通れない。どうなっている」


壁にぶつかったまま歩こうとしている識嶋さんだった。

これはおもしろ──大変だと、私は壁と仲良くしている彼に声をかける。


「識嶋さん、そこ通れません。今はまずお水飲んで落ち着いてください」


言って、識嶋さんの腕を軽くひいた。

彼は一瞬ふらりと体のバランスを崩しかけたけれど、肩から壁にもたれ私の持つ水を受け取り、喉を鳴らして空にする。

そして、グラスを私に押し付けると、そのままの体勢で目を閉じた。


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